中村賢一(藤野里山交流協議会/会長)

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都市と農村の交流事業がスタート

藤野里山交流協議会では、自然の大切さや農林業の重要性を、多くの都市住民に知ってもらい、興味をもってもらうために、都市と農村の交流事業をスタートさせた。

藤野地域の75%は山林で、畑をやっている人も多い。景色だけを見ていれば、農業や林業のイメージがすぐさま浮かんでくる。しかし平地が少ない藤野地域は、自給自足はできても、ビジネスとしての農林業は難しいと、よく言われている。

藤野里山交流協議会会長の中村賢一さんは、誰よりも藤野地域のことを知り尽くしている人だ。かつては旧藤野町役場に務め、ふるさと芸術村構想やシュタイナー学園の誘致など、さまざまな企画を手がけてきた。退職後も、ふじのアートビレッジやサンヒルズの設立・運営を行なうなど、まちづくりに深く関わっている。農林業の活性化も、今後の課題のひとつと考えている。

キーワードは「再生」「身の丈」「持続可能」

「キーワードは、再生、身の丈、持続可能」と、中村さん。

「今、日本の農業は大規模集約型機械化農業がほとんど。でも、中山間地でできる農業は、少量多品目、有機無農薬の小規模農業です。もともと藤野には専業農家はいません。子育てをしながら、絵を描いて、仕事をして、畑をうなって、炭を焼く。それが地域経済を少しだけ潤す。これが中山間地の農業なのです」

農業の形もまた、柔軟に、土地に合ったものにしていくことが大切だ。そして、小規模農業だからこそ、経済的側面だけではない役割も果たすことができる。

「農林業の活性化と言っても、ここで一大産業を起こすということじゃない。農林業には、食料安保やエネルギーだけではなく、まちづくり的要素がいっぱいあります。たとえば、農業と福祉も繋がっています。高齢化社会が問題だと言われているけれど、高齢者も本当は戦力ですよ。元気なお年寄りが農業を通じて社会参加をする。体を動かしていれば介護の必要も減るし、年金+αの収入が得られる。まちづくりの視点から農業を見つめ直してみると、いろいろなことが繋がっていくんです」

藤野地域の農林業の現在は?

一方で中村さんが危惧するのは、今後の藤野地域の農林業の行方だ。良質なお茶の生産地として知られる藤野地域だが、その生産量は年々減少傾向にある。中村さんが役場の産業課に勤めていた十数年前、お茶畑は25ヘクタールあり、組合員は約140名いた。それが今では、10ヘクタールほどになり、組合員にいたっては20名を切ったそうだ。山には、間伐されないまま荒廃している人工林もかなり見られる。

農林業がきちんと行なわれることによって、美しい景観が保たれ、豊かな土壌や水がもたらされる。しかしこのままでは、いつか景観は失われ、水質汚染や土砂災害などの危険性が増していく可能性がある。

「そういう意味でも農林業を保護していくことは大事なんです。特に、ここは相模湖があります。農林業を守ることが、都市の人たちが飲むきれいな水を確保することにも繋がるんです」

100円の大根を1000円で売るためには?

「だけど、都市の人の中には、農業振興になぜそこまで力をいれなければいけないのか、と言う人もいると思います」と中村さんは続ける。そこで、都市住民に間伐を体験してもらったり、お茶の生産に関わってもらい、農林業がなぜ大切なのかを知ってもらうことが、これから先、必要だと考えている。

「興味をもってもらうことが大切です。今、いろいろな若い人たちが藤野にきて農業をやろうとしているけれど、みんな都市の住人だった人ばかり。こんなにすばらしいことはありません。まさに交流ですね」

移住人口の多さは藤野地域の特徴だ。それでも、地域内に仕事を持つ人の数はけっして多くはない。専業農家は難しいという中山間地で、農家が自立するためには何が必要なのだろうか。

「そこでもうひとつ、目指すべき道が6次産業化です。大根を100円で売っているだけでは厳しい。だから、100円の大根を1000円で売る知恵と価値を見出していく。藤野は東京に近いという利点もあります。東京に近く、自然がたくさんある中山間地という特性を活かした6次産業化がポイントです」

都心にもっとも近い里山、と評される藤野地域。今回の交流事業も、藤野地域の特性を活かした農林業の6次産業化の試みのひとつと言えるだろう。訪れやすい里山だからこそ、藤野地域の農林業には、都市と農村の交流拠点としての役割がある。里山交流協議会の取り組みは、その第1歩と言えるのかもしれない。